歌声を聞ききつつ地下鉄の階段を疲れた足をゆっくり交互出しながら下りた。
プラットホームではいつものストリート音楽家たちがいつものMyGirlを熱唱してる。彼らは、日々の糧を稼ぐ為に歌ってるのか、そのすばらしい歌声を披露する為なのか、いつかスカウトが来るのをまっているのかは私には解らない。でも、彼らの歌声は仕事と人生にちょっと疲れた私に元気をくれる。
なぜか今日はふといつもは絶対にしないリクエストをしたいなと思った。曲名は『Stand by Me』。私の気持ちが通じたのか、彼らは『Stand by Me』を偶然にも歌いだした。
『Stand by Me』を聞くと、まだ幼かった自分を思い出す。無知で、世間知らずで、傲慢で、おまけに無鉄砲。でも好奇心でいっぱいで、感じるもの、見るものすべてが刺激的だったあの頃。アメリカでの生活に憧れていた私を思い出す。『Stand by Me』は私にとってアメリカのすべてだったから。
実際にアメリカに住み始めるとアメリカは自分の描いていたものとは違う。みなそれぞれの問題を抱えてる、世界中の誰もがそうな様に。けっしてバラ色の生活ではない。そしてその生活に慣れきってしまった私。見るもの、触るもの、聞くもの、すべてが日常のいつもの風景になってしまった今。その現状を変えることもなく住めば都と言い聞かせ何もしない私。
そんな冒険をしなくなった私に『Stand by Me』は幼い頃の野望でいっぱいだった私に引き戻してくれる。そしてそっとがんばれよと言ってくれるような気がする。